木村衣有子さん。
好きなんだな。この人の文章。
はじめて読んだのは「味見はるあき」という個人出版社の本。
食べることについて綴られた文章がしっくりきて、そこでお名前を覚えました。
この方は出している本の装丁とか、柔らかい語り口から、一見ほんわりなイメージを受けるけれど、その文章はじつのところ簡潔で骨太。
そこに含まれる意味や感情と文章がぴったり同じ丈になっているような無駄のなさを感じて、こんなふうに書けたらと憧れる文章なのです。
ここしばらく少しずつ楽しんでいる、ちくま文庫の「もの食う本」も、とてもいい。
食べることについて書かれた本を紹介するガイドブックなのですが、もう、まず、食べることの良さ気な雰囲気を楽しむという趣向ではないのです。
「狩猟サバイバル」「世界屠畜紀行」「牛を屠る」を重ねて紹介することもそうだし、文章を少し引用すると、
ー幸福感に満ちあふれるのみの食べもののお話、というのは、ひとくちふたくちはとてもおいしいけれど、私はたいがい途中で食べ飽きてしまう。もっと辛さが欲しい、味の中にも暗さが欲しい、そうもとめてしまうのだ。
ーもっとコーヒーに深入りしたくて読みはじめたのだけれど、コーヒーの香りよりも、男臭さが濃く匂い立ってくる本、という印象を持った。
ーほしいもの本だったから、惹かれた。
食う、という事自体というよりもそれに関わる人のあり方、食べものが根付く土地の空気や歴史だったりに深く身を投じるような選び方、書き方。
ここで紹介する本に対しても、心惹かれた部分だけでなく、ひっかかったところ、つまり違和感を感じたことなんかもさらりと書かれていて、それがまたその本を読んでみたい気持ちにさせられるのでした。
読むたびに、ああ、いいなと思う。好きだ。憧れる。
ちなみに「味見はるあき」と最近発売の「のんべえ春秋」は一般的な流通にのっていないので、置いてある本屋さんは少ないですが、「のんべえ春秋」は雑司ヶ谷のひぐらし文庫さんで買えます。営業時間は短いけれど、雑貨も素敵な本屋さん。オンラインショップもやっています。ほかの取り扱い店はこちら。
わたしはこの二冊がまたひときわ好きです。
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