川上弘美さんの初の児童文学、しかも酒井駒子さん挿絵ということで、もう発売前から楽しみにしていました。
小学4年生の主人公が図書館でであった「七夜物語」という本をきっかけに不思議な世界に飛び込んでしまうという、そのなんとも王道冒険ファンタジーなあらすじも、もう楽しみで楽しみで!
そうして開いたこの本は、先が気になるのに、読み急ぐことができない、丹念に文字を拾わせる物語でした。
主人公さよの、日常のせいかつまわりと、不思議な七つの夜の冒険。
この物語がどこに向かって進むのか、気になるのだけれど、川上弘美さんの文章が、先を急がせてくれない。気づけば普段からたくさんどんどん読みたくて、先へ急ごうと読んでいる自分をたしなめるように、ていねいにゆっくり物語は開いていきます。主人公のさよとおんなじスピードでこの不思議な世界をすすむように。
二本足でたつエプロン姿のおおきなねずみや、美味しそうなごちそう、恐ろしげに近づくはちみつ色の闇に、口笛の音色。数々の魅力的なエピソードや、自分の中にもある光と影、知りたくないような心の一部にむかったりそむいたりするその冒険は、作者が「これこそが児童文学というものでしょう?」と差し出しているように思えるくらい、子どもも大人もこころをはだかにして、むきになったり考えこんだりして読んでしまうような物語になっています。
この本を読んでいるあいだ、なんだかとてもしあわせでした。
そして眠れない夜に読み始めた物語の最後、7つ目の夜とその夜明けを、ほんとうの夜明けとともに読んで、「ああ、さよといっしょに、今冒険を終えたんだなあ」と思えたことが本当にしあわせで満ち足りていて。
ゆっくり呼吸をするように物語を楽しむことを思い出した気分です。
酒井駒子さんの挿絵もふんだんに差し込まれていて、かわいいだけでない子どもたちとその世界を現してくれています。
上下巻で、しっかりした装丁の、お値段も重めの本ではあるのですが
できるならば図書館ではなくて自分の家に置いて、1章1章ゆっくり読んでもらいたい。
本棚においた「七夜物語」がこの物語のなかの「七夜物語」のように、あなたを不思議な冒険に導いてくれるかもしれませんよ。
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