この物語の良さをどう表したらいいのかのと、好きになりすぎて寝かすことしばらく。
すっごくすっごく良かったのです。
この目立ちはしないけれど味わいのある装丁のように、
筆力の確かさによる匂い立つような生活の空気や登場人物の確かに生きてる感じ。
地味だけど、滋味。上手くて深い味わいがあって、栄養のあるスープみたいに身体に残るのです。
舞台は戦後の、焼け野原になった東京の、復興していくその時。
生き残った人間がそれぞれの事情を抱えつつ、浅草の劇場で働き暮らしはじめます。
夢を持って東京にやってきた旅の漫才芸人や、一癖二癖もある復員兵。
空襲で家族をなくした11歳の子供。わけありのショーダンサー。
みんないろいろあって、望む望まないを選ばず戦争では生き残ってしまって、
でもくよくよしたりしながらもたくましく生きています。
この物語はとにかく名文名言がたくさん。
漫画の決め台詞みたいに太文字でズバッとでてくるんじゃなくて、
その場面のなかではごく自然にあって、あとあとからああ良かったなと振り返りたくなる。
清濁ごちゃごちゃの、理不尽も不正義もあるその生活の物語のなかに、揺るがないまっとうさを感じるのです。
これ去年読んでたら一番だったなあと思います。なんで読まなかったのか!
直木賞をとった「漂砂のうたう」もまだ読んでいなくて、なんだかほんとにもったいない。
自分のバカバカバカという感じです。
でも遅すぎるということはないので、今年いろんな人にオススメしようと心に決めました。
ぜひぜひこの物語の滋味を、味わってみてください。
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