紙の月
紙の月

昔、角田光代は苦手な作家でした。
女性の心理描写に優れているのは前からですが、昔はそこが肌に合わなくて、おんなおんなしたお話を書く人…という自分の苦手カテゴリーに放り込んでいたのです。
(その当時の同じ苦手カテゴリーに入っていた他の作家というと、唯川恵や山本文緒。江國香織も片足くらい)


その印象を変えたのが、直木賞をとった「対岸の彼女」。
結婚や仕事によって立場がかわり、関係性が変化していく年代の女性同士を描いた物語で、その友情のあり方をいやになるくらいの緻密な心理描写で現しているのです。
ちょうど年代があっていたということもあるとは思うのですが、強く引きこまれました。
これを読んだとき以来、私のなかで直木賞をとる作品というものは、その作家の個性ともいうような特別な部分が年月を経て、好きとか嫌いとかを超えてより普遍的な何か、多くの人が読まずにはいられない何かに昇華したときに与えられるものとして思うようになりました。

そして今回読んだ「紙の月」も、やっぱりすごい。
銀行から億単位のお金を横領して逃亡した主婦の、犯罪に手をつけて歯止めを失っていく様が当人や関係者の視点から書かれるのだけれど、「お金」というものに翻弄される人間の心理が日常の細かい描写で丹念に描かれて行きます。
それはどこか遠い世界の見知らぬ人達ではなく、奥さんのお金で外食した時にも自分を上の立場に保ちたがる男の人だったり、欲しい物を買ってもらって無邪気に喜んでいた子供が次第に覚える媚だったり、与えられる贅沢が慣れていく貧乏学生だったり、ひどく生々しい、理解の範疇にいる、もしかしたら明日の自分かもしれない人としてそこにいるのでした。
このあとの、登場人物たちもみてみたい。この人生のその先、どんなふうに生きるのか。
この本のなかで、物語は閉じない。この前にも、この後にも確かにそこに生きる人がいて、角田光代はその一部分を切り取っただけなのだと、そんなふうに感じるのです。

角田光代はやっぱりすごい。
好きとか嫌いを超越して、追いかけずにいられない作家なのです。

好き嫌いをこえたところにいる作家。角田光代「紙の月」

2012年3月25日 23:19.
投稿者:マキ
カテゴリー:よむよむ
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2件のコメント »

  1. うふ より:

    はじめまして。ツイッターですこし前からフォローさせていただいてます♪
    私も本が好きで読んでいる本が同じだったり
    好きな作家さんが同じだったりして
    いつも楽しくつぶやきもブログも拝見してます。
    また遊びにきます。
    つぶやきも楽しみにしていますね♪

    • マキ@torineko より:

      コメントに気付くのが遅くなってすみません。
      本の好みが近いのですね。うれしいな。
      また遊びにきてくださいね!

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